先月下旬、家賃の契約更新料がタダになる、というお得な話を知った。
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家賃の「契約更新料」はタダになる!?
果たして「更新料を払わない」のはアリなのか、ナシなのか。ネット上では諸説入り乱れているが、そのファイナルアンサーを、新刊『家賃を2割下げる方法』(三五館)を上梓したばかりのジャーナリスト・日向咲嗣氏に聞いた。
「まず前提として、借地借家法上、契約更新の書類が送られてきても店子にハンコを押す義務はないということを頭に置いてください。更新書類にハンコを押さない限り、更新料は発生しません」
本当かよ? 私はまず、眉に唾をつけた。
眉唾(まゆつば)とは――
(眉に唾をつければ狐などに化かされないという言い伝えから)だまされないよう用心すること
(デジタル大辞泉より)
にわかには信じられない。記事元が「SPA」というのもウソ臭い。数年前に、
「彼女のいないあなたが女性に出会えるのはココだ!」
という「SPA」の特集記事で紹介された集まりに参加したところ、ご年配の女性しかいなかった時の徒労感を、私は忘れない。その集まりは、歴史的建造物などを散策するという会で、最近流行りの歴女(れきじょ)と呼ばれる歴史好きの若い女性が大勢やってくると、「SPA」には書かれていた。
ちなみに、契約更新料とは、賃貸マンションやアパートに住む場合に、2年おきに管理会社に支払わなければならないものを指す。通常は家賃1ヶ月分であり、家計にとって、やさしくはない。
ところが、上掲記事によれば、この更新料は払わなくてもいい、という。更新期限前に家賃の引き下げ交渉を行い、交渉決裂して、大家と店子の合意がないまま更新日期限を迎えた場合は「法定更新」になり、現在と同じ条件で更新するよう定められているから、更新料を支払わなくてもいい、らしい。
よく意味がわからん。そこで、ぐぐってみたところ、似たような指摘がいくつもある。
また、特約等で取り決めがあっても、法定更新の場合には、特約を有効なものと考え更新料の支払いを認めた判例がある一方で、特約は合意更新を前提としたものなので更新料を支払う必要はないとした判例もあるなど、裁判所の判断も分かれているのが現状です。
ふ~ん。
要は、家賃を問題なく払っているなら、よほどの理由がない限り、追い出されることはないと法律できまっているらしい。そして「契約更新料を払わなくてはならない」という法的根拠はない。だから、交渉が決裂したという理由さえあれば、その理由をもとに、更新料を払う必要がなくなる、ということらしい。
実は再来月の31日に、私が借りている部屋の更新期限がやってくる。いっちょ条件交渉をやってやろうか、という気になった。
もしも裁判になっても、いい勉強になる。その過程をここに書けば、いいネタになる。上記のような「更新料は払わなくてもいい」と指摘する記事は数多くあるけれども、裁判の過程をブログに書いたものはない。読者の需要もあるだろう。
家賃の相場を調べる
更新期限がやってきた、というお知らせの電話を受けたのが先週のこと。そのときに思い出したのが上の記事。そこで「後でかけ直す」と不動産屋に伝えた後に、自宅近くの似たような物件の家賃の相場を調べた。
調べる方法は簡単。自分の住む建物の名前と「家賃」というキーワードをスペースを開けてYahoo!やGoogleの検索窓に入力して、検索すればいい。
例えば、六本木ヒルズのマンションを調べたいならば、
「東京 六本木ヒルズ 家賃」
で調べれば、すぐに空室と家賃がいくらか分かる。あるいは、住所から番地を外して、
「東京都港区六本木6丁目 家賃」
で調べてもいい。
そこで、自分の住む建物よりも安い家賃のところがあれば、しめたもの。私が調べたところ、お隣の部屋が、今の私の家賃よりも2,000円安い値段で店子を探していた記録を見つけて、早速プリントアウトしておいた。これは一番の証拠だ。
条件交渉を始める
数日後、不動産屋に電話をした。
不動産屋「はい、×◯です」
私 「こんにちは。私、◯×の◯号室に住んでいる□□ともうします」
不動産屋「いつもお世話になっております」
私 「こちらこそ。ところで、先日ご連絡を頂戴した契約更新の件ですが……」
不動産屋「はい」
私 「更新後には、家賃を下げていただけないでしょうか」
不動産屋「え?」
私「住んで数年経っておりますのと、昨今家賃の相場もお安くなっておりますので」
不動産屋「いやぁ、それは難しいと思いますよ。相場からしても、適当な家賃だと思いますよ~」
私は、そうでしょうか、昨今いろいろと建築ラッシュでマンションも増えているので、お安い物件がこの近くにもたくさんあるようですよ、などと話した。不動産屋は、今の家賃は妥当だと、強気な主張を繰り返す。
相場では無い、と訴える
私 「今住んでいる建物の家賃が、もっとお安い値段で募集していたネット記事を見たような気がしますが」
不動産屋「(明らかにトーンダウンして)う~ん、そんな記事ないと思いますけどねぇ。どこのサイトですか?」
私 「すみません、私も自信がなくて……どこのサイトだったかな……」
と言葉をにごした。
後日裁判になった時に、私のプリントアウトした記事が重要な証拠となるだろう。切り札はとっておこうと思った。今ココで、手の内を全て見せてはいけない。相手に準備をさせる時間を与えてしまう。
不動産屋「家賃は適正価格だと思いますけどねぇ」
私 「せめて3,000円安くして欲しいですね」
上記サイトでは5,000円安くしてほしいと訴えろ、と書いていたが、そもそもの出発点が、そこまで高い家賃ではない。そこから5,000円値引いて欲しいと要求するのは、なんぼなんぼでも強欲だと思った。
実はこの家も住宅環境も、気に入っている。契約更新料を支払わないためとはいえ、いい部屋を提供してくれている大家に対して相場よりも低すぎる家賃を提示するのは、少々失礼だと思った(ここは、私の気の弱いところかもしれない)。
ほとんど同じ作りと思われる隣室の家賃が、うちよりも2,000円少ないのだ。そこからさらに1,000円差し引いた金額で交渉するのは妥当だろう。
相手の非を責める
なおも強気でいこうとする不動産屋に、別の切口から攻めることにした。雨樋が一部破損している。それを直すように不動産屋に今年初めから、数回にわたって私は訴えていたが一向に直す気配がない。
そのことで少々立腹していることなどを伝え、そういった不満が、現在の家賃への不満につながっている、ということを訴えた。向こうは黙る。あくまで、雨樋を直すつもりはないらしい。
私はいいんだけど、雨樋から吹きこぼれる水を浴びながら上へ上がる上階の人は難儀したままだろう。かわいそうに。
不動産屋はそれでも強気で、
「大家と交渉してみますが、ムダだと思いますよ」
と言い、私は、まあ、よろしくお願いしますと伝えた。
不動産は言外に、裁判になるかもよ的なことを匂わせたのだが、裁判になることをむしろ願っているし、別に勝とうが負けようが(ネタになるので)かまわないと思っているから、それには笑ってごまかした。
本気であることをアピールする
私 「ところで、今回の家賃の引き下げの件ですが」
不動産屋「はい」
私 「後日、内容証明で依頼書を送りますので、よろしくご確認ください」
不動産屋「……内容証明ですか?」
私 「はい」
冒頭で挙げた「SPA」の記事によれば、家賃の値下げ交渉は、
不動産会社もしくは直接大家宛てに、レター形式の文書を一通、送りつけるだけでOK。何の交渉スキルも要りません。
なのだそうだ。でも、本当だろうか? 不動産屋が、
「聞いてないよ。そんな郵便も届いていません」
と言ったとしたら、どうするのだろう? 証拠がない限り、送った届いていない、言った言わないの水掛け論になったらおしまいじゃないか。
文書を送ったことを証明するものがあればなおいい。一番簡便なのは電子メールだろう。メールを送って、不動産屋から受信した旨のメールを受け取れば、それは立派な証拠となるはずだ。ヘッダーには、送信者の情報が必ず記録される。
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意外な情報がバレる?! Eメールのヘッダーから送信者の情報を解読する方法
ただ、もしも裁判になり、相手がそのメールは受信していないと主張し、それがウソであることを証明するのは、いろいろと大変だろうと思う。それよりも、数百円で、家賃の引き下げを依頼したことを、間違いなく証明をしてくれる内容証明郵便を利用したほうがいいに決まっている。
内容証明とは
一般書留郵便物の内容文書について証明するサービスです。いつ、いかなる内容の文書を誰から誰あてに差し出されたかということを、差出人が作成した謄本によって当社が証明する制度です。(郵便局「内容証明とは」)
「こんな内容が郵便物の中には書かれています」ということを公的な存在が証明してくれるのだ。また、それが相手に送付されたことも証明して欲しいときは、「配達証明」をさらに依頼する必要がある。
その上、昨今は便利な世の中となり、わざわざ原稿用紙に手書きで記入しなくてもよくなった。ネット上で内容証明を作成して、紙に印字して、相手に紙で送付してくれる、「電子内容証明サービス」なるものを郵便局が始めている。これは素晴らしいシステムだ。
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電子内容証明サービス
内容証明は、行政書士を描いたマンガ『カバチタレ!』ではおなじみの制度でもある。
私も一度は使ってみたい!
不動産屋に、
「内容証明で、なぜ私が家賃の引き下げを要求するにいたったかを書いて送付しますので、ぜひ大家さんにも見せてください」
とお願いして電話を切った。
結局どうなったかというと……
それが一週間前の話。その後、仕事が忙しくて内容証明を送付することもなく、放置していた。更新期限までまだ間がある。暇になってからとりかかっても遅くない。
不動産屋からは何の連絡もなかった。私の出方をうかがっているのだろう。
「SPA」によれば、家賃交渉をした場合、圧倒的に契約更新料をあきらめ、家賃は据え置きとなるケースが多い、という。たぶん、更新料はタダになる。私は「勝った」と思った。
ところが、返事は突然、昨日日曜日のお昼にやってきた。
不動産屋「もしもし、×◯不動産です」
私 「お世話になっております」
不動産屋「先日の契約更新のお話ですが」
私 「はい」
不動産屋「大家さんと交渉した結果、家賃を2,000円値下げすることに成功しました」
私 「そうなんですか(ええ~そんな~)」
ここでゴネることもできたのだろうが、折れることにした。いろいろと不満もあるが、相手も頑張ってくれている。しょうがあるまい。ここで引き下がろう。
相手の顔も立ち、私も家賃が少し安くなり、大家も引き続き家賃収入が入る。不動産屋の更新料は2,000円下がり、私は裁判にならずにネタを失い、何より更新料を払う羽目になり、大家も家賃収入が少し減った。
三方一両損のようなものだが、そこがいい。
こうして、更新料がタダになることは、私の場合、なかった。それでも、交渉してみて、良かったと思う。
無理な要求は、相手との間に禍根を残す。しかし、相手から要求されたことをそのまま鵜呑みにするばかりでいいものだろうか? この世の中はコミュニケーションでなりたっている。取引はコミュニケーションの一種だ。お互いに要求を出し合い、妥協点を探るというコミュニケーションの第一原則を、家の賃貸契約を更新するときに応用しても、道義的に悪いことではないと思うのだ。
まあ、小さくてみみっちい成果だし、更新料も痛いけどね!