「経験の欺瞞」という言葉を知りました。
たとえば、昔友人にひどいことをしたことのある人間は、その後も、他の人間をいじめたり虐待したりする傾向があるのだそうです。
「嫌な人間は、罰せられて当然だ」とか「俺はみんなの気持ちを代表して、あいつを懲らしめてやったんだ」とか、自分が行った罪を認めずに正当化する心理状態。それが経験の欺瞞です。
「あんな奴は、いじめて当然さ」
「トロトロした奴を追い込むことは、正しいことだ」
「あいつもトロトロしてやがる」
「あいつに優しくしてはダメだ」
「あいつを懲らしめてやる」
と、考え、生涯を通じて、弱い者いじめを行います。それは第二の天性となり、やがて、彼自身すら蝕んでいきます。
本当は、自分でも悪いことだと気づいているのです。それなのに、自分を守るために、正しいことだったのだと思い込もうとします。とはいえ、表面上でいくら自分が正しいのだと思い込んでも、元来理屈に合わないことですから、潜在意識の中で葛藤が起こります。そうすると、真実と自己認識の間で葛藤が起こり、精神的に追い込まれていくのだそうです。
個人もそうですが、共同体もまた然り。
アメリカ人は、歴史で、清教徒がヨーロッパの迫害を逃れ新世界にやってきた、という物語を学校で習います。ところが実際にアメリカ大陸で起こったことは、清教徒が迫害する側にまわり、インディアンを虐殺していくというものでした。
しかし、アメリカではその考え方をなかなか認めません。ピルグリム・ファーザーズを始めとする開拓者の一群は今でもアメリカ人にとっては英雄です。
実際のところ、ヨーロッパからやってきた開拓者たちは夕食に招いてくれたインディアンを虐殺し、彼らの土地を奪ってアメリカを建国したのです。そういう没義道なことを行った祖先を正当化しようとする結果、アメリカ人は、遅れた文明国に民主主義を広げるためには住民を殺してもかまわない、と考える傾向があるのだそうです。
でも、潜在意識ではそれが悪いことだと感情でもわかっているはずなんですよね。わかっているから、米国以外の国が行う虐殺行為には極度に反応し、絶対に許さないのでしょう。本来なら自分を批判する代わりに、他者を批判することで、精神の健全を図っているのかもしれません。
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