その部長の話によれば、まずはオタクと仲良くなること、に尽きるのだそうです。
オタクは案外、他人との交流に飢えており、オフ会などに参加して、ターゲットを見つけ、趣味の話を下手(したて)になって聞けば、いつまででも話をしてくれるのだといいます。
「まずは友だちになることがポイント。友だちになるのは、難しくないんだ。彼らは、似たようなタイプの友人しかいないことにコンプレックスを持っているから、ちょっと変わったタイプの人間が、媚を売って尻尾を振って近づいてくれると、嬉しくてたまらないんだよ。あんた、明日から茶髪にしなよ。不良タイプの方が、逆にウケがいいから」
へえ、と目からウロコが落ちました。
「最初から、自分が不動産屋をしていることを話すのもポイント。嘘をあいつらは嫌うから。そして、絶対に営業トークはするな。彼らの家に上がるほど仲良くなるだけでいい。後は俺達がやる」
「……何をするんですか?」
理由はなんでもいいので、とにかくターゲットのオタクと、この不動産屋の上司数名を、同席する機会を作らせるのだそうです。
「営業成績が悪いので、営業の場を何とかしてセットしなくちゃならない。上司の話だけでも、聞いてあげて欲しい」
「会社の同僚が、あなたの趣味に興味を持っているんだ。だから、話を聞かせてよ」
そして、顔を合わせた初日は、とにかくオタクの悩みやコンプレックスを掘り起こすことだけに時間をかけるといいます。
「ターゲットは20代はダメ。30代以上で、自分がこのままでいいのかな、と迷っている層がいいな。彼らは、このままじゃ嫁さんももらえず、1人寂しく死んでいくしかない、ということを心の底で分かっていて、恐怖感を絶対に抱えているから」
実際に、そういうオタクに何人も会ってきたからでしょう。
自信を持ってその部長は話してくれました。
「それに、性欲はいっちょまえにあるからさ、そこを攻めるんだ。彼女が欲しいですよね? でも、女なんて妙に現実的で、学生時代はスポーツができて面白ければいいですけれど、社会人になったら目に見えるステイタスがないとダメですよね? ってね。その年になれば、オタクも多少現実が見えている。清純な女性なんて、世の中にはほとんどいないことが分かっているんだ」
そうかもしれません。
妙に打算的で、カネと地位のない男性とつきあうことを、ハナから否定する女性がこの社会になんと多いことでしょうか。
だからこそ、打算的ではない女性に出会えた男性は、自分の幸運に感謝しなければなりません。
「実際、ただのキモオタと、マンションオーナーとは全然違ってくるからね。うちでマンションを買ったことがきっかけで、結婚できたオタクは多いんだよ。だから、うちは人助けをやっているようなもんだ」
そうかもしれません。
妙に打算的で、カネと地位のない男性とつきあうことを、ハナから否定する女性がこの社会になんと多いことでしょうか。
だからこそ、打算的ではない女性に出会えた男性は、自分の幸運に感謝しなければなりません。
「実際、ただのキモオタと、マンションオーナーとは全然違ってくるからね。うちでマンションを買ったことがきっかけで、結婚できたオタクは多いんだよ。だから、うちは人助けをやっているようなもんだ」
「そこから営業して、うまくいきますか?」
「最初はその気にならないさ。だから、ターゲットとなるオタクを常時10人用意しておく。彼らとつきあいながら、その中で次第にターゲットを絞り込んでいく。10人もターゲットがいれば、1ヶ月に1人は見込み客が出てくるから。見込みのないのは外していけばいい。そして、見込みの有りそうな、気が弱くて約束を断れない、小金持ちのオタクがいたら、後は一気に責め立てるんだ。電話をガンガンかけて、何度も会う。会社の近くにだって喜んでいくよ。それはあいつらの方が逆に嫌がるけれどね」
詰めるのは、強烈にやる、だって、あいつらがカネ持ってても、趣味にしか使わないのならば、宝の持ち腐れじゃん、と笑いながら話くれました。
「それだけじゃない。時には彼らに仕事を注文する。パソコンのセッティングだったり、うちの仕事のどうでもいいプログラミングを頼んだり。彼らの会社に仕事を依頼したり。彼らと絶対に会える回数をとにかく作るんだ。時間さえあれば、絶対に落とせる」
本当でしょうか? ……この立派なフロアをみる限り、本当なのでしょう。
「マンションを買った後は、ほとんどのオタクが感謝する。彼らが今まで住んでいたマンションと同じような、20平米未満のマンションだけどさ、自分の家を持てたんだ。財産があるんだ。これで、一城の主だ。顔つきが変わる。こんないい仕事、ないよ」
「それだけじゃない。時には彼らに仕事を注文する。パソコンのセッティングだったり、うちの仕事のどうでもいいプログラミングを頼んだり。彼らの会社に仕事を依頼したり。彼らと絶対に会える回数をとにかく作るんだ。時間さえあれば、絶対に落とせる」
本当でしょうか? ……この立派なフロアをみる限り、本当なのでしょう。
「マンションを買った後は、ほとんどのオタクが感謝する。彼らが今まで住んでいたマンションと同じような、20平米未満のマンションだけどさ、自分の家を持てたんだ。財産があるんだ。これで、一城の主だ。顔つきが変わる。こんないい仕事、ないよ」
上記のようなことを、部長という肩書きの男性は、熱く語ってくれました。
なぜ、一介の求職希望者に、ここまで熱く語ってくれたのでしょう。
私がぜひとも欲しいから? まさか。
もしかすると、彼も自分の詐欺まがいの仕事が、時々嫌になってしまうのかもしれません。
たまたまそこに私がいたので、自分に言い聞かせるために、ここまで長く話してくれたのではないか……と、今では考えています。
なぜ、一介の求職希望者に、ここまで熱く語ってくれたのでしょう。
私がぜひとも欲しいから? まさか。
もしかすると、彼も自分の詐欺まがいの仕事が、時々嫌になってしまうのかもしれません。
たまたまそこに私がいたので、自分に言い聞かせるために、ここまで長く話してくれたのではないか……と、今では考えています。
部長の言うことは、ある程度は真実なのでしょうが、語られていないことも多いはずです。
ターゲットにマンションを購入させるまでに、どれほどの強要行為があるものやら。
この武闘派チーマーがそのまま年老いたような人物の顔つきを見れば、容易に予想がつきます。
その場ではお礼を言い、来週出勤の打ち合わせをした後、帰宅して即座に入社を断りました。
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