5.能敏捷 決断と行動を敏捷にすること
「あんたの行動を見ていると、動作がのろいんじゃないのか」
と指摘されて、友人は赤面したといいます。自分のペースで行動したいのだ、と言い訳する友人に対して、老華僑はこう諭したそうです。
「私のような老人と相対するときには、そのようにゆったりしていても構わない。でも、あなたのような若い人間が、他の仲間と一緒にいるときにモタモタしていては、周りに迷惑をかけるだけだ。たとえば片付け、あるいは目覚めてから起床するまで、一日の中に無数の行動がある。それぞれを、出来る限り素早く行うように心がければ、必ず行動は変わる。行動が早くなれば、決断だって早くなる。動作をもっと機敏にした方がいい」
6.能討脹 回収に努力すること
友人は映画を観るのが趣味でして、現地でも邦画のDVDを日本から取り寄せて観ていたそうです。その噂が立ちまして、彼に、DVDを貸してほしい、という依頼が何度かあったそうですが、返ってこないことが何回かあり、彼の悩みのタネとなっていました。しかし、せっかく語学学校でできた人間関係を壊したくないがために、約束を破っても深く追求しない友人を老華僑は諭したそうです。
「自分も約束を守る。その代わりに、友人にも出来る限り約束を守らせるようにしなさい。約束を守らない相手は、やがてあなたを裏切るようになる。もしもあなたも友人も、どちらも時間にルーズな性格だったとする。その友人が成長して、時間を守れるようになった時に、友人はあなたとの友人関係をまっさきに切るだろう。以前『自分の害になる人間とはつきあうな』と言っただろ。約束を守らない人間は、あなたにとって害悪以外の何者でもない。その友人とつきあいたければ、彼にもできるだけ約束を守らせるようにしなさい」7.能用人 適材適所で人を使うこと
どんな環境にでも対応できるというタイプはそれほど多くなく、誰にでも得手不得手があります。何か得意なものを伸ばさない人間は、器用貧乏となってどの分野でも大成しないことだってありえます。
さて、友人はあるとき、バイト先で揉め事を起こします。近くのスーパーでバイトを求人していたために思い切って面接を受け、見事採用されて働き始めたのはいいものの、そこで知り合ったオーストラリア人と、捕鯨問題で論争をしかけます。その結果、喧嘩となり、クビになりました。老華僑はそのことを引き合いに出しながら、この第7則についてこのような解釈をしてくれたといいます。
「どんなことでも話せるのは、家族だけだ。親友と青年時代に思っていた相手だって、違う会社で違う立場で違う仕事をしていたら、価値観も大きく変わる。あなたの関心のある分野は相手にとっては退屈なものかもしれない。友人と仲良くしたいのならば、相手にとって関心のあることだけを話しなさい。あなたと相手との間に、共通の関心が何もないということはない。食事の話でもいいし、もっといいバイト先の話でもいい。店長の悪口でもいいじゃないか」常識といえば常識ですが、私の友人は、
「相手にとって関心のあることしか話さない」
という老華僑のはっきりとした態度に打ちのめされたそうです。
(そこまで自分を殺すのか?)とね。
8.能弁論 討議する才能を持つこと
「英語に自信がないから、オーストラリア人になかなか話しかけられない」
と嘆く友人に、老華僑は、準備することを教えました。
「いきなり会話がうまくいくことなんてありえない。そのためにはとにかく話すことが大切だ。相手にとって関心のあることが分かったら、それについて調べて、自分の考えを事前に英語でまとめて話すようにしなさい。何も用意しないで話そうとするからダメなんだ。準備という努力をして、会話という試合をし、その結果自分の能力が上がる。その繰り返しで、コミュニケーションがうまくなる。『陶朱公の十二則』なんて言っても単なる知識でしかない。それを自分のものにするためには、実戦しかないよ」同じようなことを明代の思想家である中国人・王陽明(1472~1529)という人が、「事上磨練」という言葉で説明していました。
知識というものは、本を読んだだけでは身につかない。仕事や戦争などの実地に応用して、試行錯誤を繰り返すことで初めて自分のものになる。という王陽明の教えを、この老華僑も知っていたんじゃないでしょうかね?
9.能弁質 商品に対する目を肥やすこと
私の友人は、正確にいろいろと難はありますが、基本的人は好人物です。悪くいえば、少々お人好しの気がありまして、、留学して一年半目に現地の同じ日本人留学生の女性からネットワークビジネスに勧誘されて、15万円ほどする浄水器を買ってしまいました。
最初はホームパーティーだと言われて誘われたところ、そこにいる「彼女の友だち」とやらは全員ネットワークビジネスの会員だったとか。
14時に食事を済ませた後、夜20時まで会話を装いながら執拗に勧誘されたと言いますので、怖いですね。老華僑は十二則について話す際に、この友人のエピソードを挙げながら、こう諭したといいます。
「あれだけで済んでよかった。つきあう相手を間違えば、しなくてもいい苦労をすることになる。いきなり値踏みするようににらみつけてくるような相手を、大物だと思って近づくと、たいてい利用されて終わりとなる。共通の関心もないのに近づいてくる女性は、あなたのサイフが目当てだ。これに懲りずにいろいろな人と出会った方がいい。そして、できるだけ性格もよく能力の高い人と長く付き合いなさい。一流とつきあえば、自ずと人を見分ける能力が磨かれる」この話を聞いた時に、銀行の偽札監視官の話を思い出しました。彼らはその職務につくと、一定期間、真札だけを一日中観察することを義務付けられるそうです。正しいもの、よいものだけを見続けることでしか、物事の真贋を見分けることができないのだといいます。
10.能知機 タイミングを逃さないこと
友人には、語学学校で知り合った台湾系のかわいい女性と、大学で偶然再会し、そのあと急速に仲良くなりました。幾度となくメールもやり取りするようになり、ようやく告白しようとしたときに、他の男から先に告白され、振られてしまったといいます。友人が帰国間際にその女性に、
「本当は好きだった」
と伝えたところ、彼女は涙を流しながら、
「私もそうだったのに。でも全然告白してくれないから、あなたのことをゲイだと思って諦めていたの」
と言われて大ショックを受けたと言います。
老華僑は、台湾女性が他人とつきあい始め、がっかりしている彼に対して、
「物事にはタイミングがある。タイミングは早くても失敗するけれども、遅くても失敗する。それは経験で確かめていくしかない。一度失敗したら、同じ失敗をしてはダメ。最初が遅すぎたのならば、次には思い切ってもっと早くした方がいい。あなたにとって早すぎると思うことが、世間ではちょうどいいと思うタイミングかもしれない」とアドバイスをしたそうです。
この話を聞いて思い出したのは、大砲の照準の合わせ方です。一度大砲を打ち、弾が届かなかった場合、どうするか? 少しずつ目的物に合わせるのではなく、今度は思い切って遠方へ照準を合わせるのだといいます。それで届けばよし、目標を大きく越えてしまったとしても、最初に爆着した場所と、次に爆着した場所を見れば、大体の照準の合わせ方がわかるからだといいます。
11.能偶率 率先遂行で人を指導すること
もともとは成功哲学ですから、コミュニケーションの方法としては、あまり役立たない文言かもしれません。ただ、女性にもてない友人に対して、老華僑は、なにかのリーダーになれ、と諭しました。
「今のあなたはカネがない。社会に出ていないから社会的地位もない。若さしかない未熟な男に、女性は魅力を感じることはない。それでももてる人間は、何かしらのリーダー的要素をもっていることが多いんだよ。サルは集団を作って群れを作るが、ハーレムを作れるのはボスザルだけだ。あなたが何かを企画してリーダとなってがんばったときに、必ずその姿を素敵だと思う女性が現れる。失敗してもいいから、何か企画をして、リーダーとなりなさい」老人のこの教えを聞いて、友人は日本に帰国後にmixiでコミュニティーで人を集め、社会人サークルのリーダーとなりました。まあ、そこでは男性ばかりしか集まらなかったので彼女はつくれませんでしたが、そのあと就職した会社で、役職を任された時に、その時の経験が大変役に立ったと言っていました。そのときのプロジェクトで知り合った女性と結婚したのだから、老人の言うことは間接的に役立ったのでしょう。
12.能遠数 先を見通すこと
老華僑のことをタダものではないと思っていた友人ですが、あるとき老人もまた、成功者の一人であり、友人が食事をしていた食堂のオーナーだったことを知ります。オーナーに対して店員がいちいち挨拶にくると、他の客に迷惑だからという理由で、毎日のように店に通うオーナーに、店員は決して話しかけないように決められていたのだそうです。
私、中国人は上下関係に厳しくて、そのようなメンツの立たないことはしないものとばかり考えていたのですが、そうとばかりも言えないんですね。
さて、老人によれば、十二則の最後となるこの「能遠数」はもっとも大切な法則だそうです。
「自分がどうなりたいか、あなたがその友人とどのような関係を築きたいのか、思い描きながら行動することが必要だ。理想を実現できなければ、理想と行動のどちらかを修正すればいい。今のあなたにとっては、思い通りにならない現実が不満で不安でしかたのないのだろう。それを変えたければ、先を見通しながら行動し、結果が出たら反省して修正することを繰り返すことが大切だ。そのうちに、いつの間にか、理想をそのまま実現できるようになる……ただし、そうなった時には安心はあっても、感動はない」友人はその時、年をとることの恐怖を感じたといいますが、それはまた別の話。先のことを見通しながら、実戦を繰り返す。これはコミュニケーションも同じということですよね。どのような関係が一番自分にとって都合がいいのか。職場や学校、家族や仲間、様々な立場で異なってきます。理想をまず描くこと。それがどんな場合でも大切ということですよね。
私が友人から聞いた話は以上となります。当時、
「こりゃすごい」
などと思いながらメモしていましたが、今読み返すと、それほど変わったことは言っていませんでしたね。
しかも、今回友人にこの記事をアップしていいか尋ねたところ、
「よくそんな昔のメモ、とっておいたね。あのときはオーストラリアから戻ったばかりだったから、感動してお前に話したのだろうけれど、今はもうあんまり覚えてないよ」
と語っているほどで、ほとんど記憶に残っていませんでした。
現在この友人は、大成功することこそないものの、IT企業のサポート営業? とやらで、なんとか頑張って働いています。今ではそこそこ社交的となっているのは、あの頃の体験が生きているのかもしれません。
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