東京の銀座という街は、面白い構造をしている。
1丁目から8丁目まであり、それぞれが縦に長いブロックを形成していて、1丁目から8丁目に向かうに従って、ショッピング街から飲食街へと少しずつ趣を変えていく。オフィス街である京橋に近い1丁目と、スナックやクラブが立ち並ぶ7、8丁目の雰囲気とはガラリと異なる。
銀座の中心を貫くのが、4丁目と5丁目の間の晴海通りだが、この間を結ぶ地下通路が三原橋地下街であり、ここはきらびやかなブランド店が立ち並ぶ銀座通りと異なって、昭和の臭いが立ち込めている、悪く言えば場末の、よく言えば味のある空間を形成している。
ここにある名画座・銀座シネパトスが、3日前の3/31(日)に閉館した。
晴海通りは交通量が多く、信号待ちをするのは時間がかかる。新橋駅で降りて、歌舞伎座へ向かう際には、和光の前の横断歩道を渡るのではなく、この地下通路を利用することが多かった。
日曜日、たまたま、銀座に寿司を食べに行く途中でこの地下通路を通ろうとしたときに、銀座シネパトスの閉館を知った。
ここを通るたびに、他では上映しないような変わった映画のポスターを眺めるのが、楽しかった。時には銀座という土地柄に合わないようなピンク映画のポスターが貼られ、たまには綾瀬はるか主演の「サイボーグ彼女」などといった売れ筋の映画も上映されていたりする。
ただ、映画館は古びていた。シネマコンプレックスのような豪華な設備の映画館に慣れてしまうと、せっかく1,800円ものお金を払うのだから、何もこんなところで観なくてもいいじゃないか、ここで観るならDVDを借りるよ、などと思ってしまい、一度も入場したことがなかったことを、ここで告白せねばなるまい。
だから、銀座シネパトスの閉館を悲しむ人々の中に私がいるのは場違いだったのだろう。足早に通り過ぎようと思ったのだが……人々の感傷的な気分に感染して……その場を立ち去り難くなった。少し、そこにたたずんで、今日で終わりだという映画館の最後を看取ることにした。
大勢の人が、集まっていた。
年代を感じさせる、上演案内板。
閉館を記念して、いろいろな催し物がここ連日、開催されていたらしい。佐野史郎のトークショーなどがあるのを見て、それを知らなかったことを激しく後悔した。
芸能人の寄せ書きが多く集まっていた。近くには歌舞伎座だけではなく、他にもたくさんの劇場がある。出演者が劇の稽古を終えて、ふらっと映画をここで観たりしていたのかもしれない。元AKB48の前田敦子のサインがあったのを見た時は、過去と現在のつながりを感じて嬉しかった。
そういえば、歌舞伎座は建て替えが終わったばかりで、昨日が初日だった。雨が降っていたが、大盛況だったようだ。しばらくこの辺りに、芸能人も大勢集まるはずだから、東京に来て芸能人に会いたいのならば、この辺りをウロウロしていれば、会えるチャンスがあるかもしれない。
大勢の本当のファンの感傷に満ちた地下通路を通りすぎて、振り返る。
すでに本日の閉館イベントは終了して、これ以上、何も起きないだろうに、何をするでもなくその場を動かない人々がいた。
思い出がそこにあった。そして、人々が思い出と共に去って、やがて消えていくのだろう。再び通るときには、そこには何かの痕跡が残るだけとなり、それが何だったのかを思い出すまでに、時間がかかるようになるのだろう。
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