「プロなら泣いてもTV歌唱中の音程をはずしちゃ駄目、この甘え体質が有る限り、昔を繰り返してしまうだろう」
「生放送で起きてしまったのか…」
などとネットでは書かれていました。
もっとも、号泣して歌えなくなったのは出だしだけで、その後は持ち直し、元気に歌っていたので一安心といったところでしょうか。
ただ、彼女のこれまでの軌跡や今回の号泣事件を観まして、歌手というのは因果な商売だと改めて感じました。
歌手は歌を何千回と歌う
歌手は一つの持ち歌を、生涯に何回歌うのでしょうか? 舞台で歌うだけではありません。練習のため、レコーディングのため、あるいは舞台稽古のため……。
もちろん、他にも持ち歌はありますから、ある1曲だけを歌う回数には限度があります。でも、一般人が毎日歌うことは滅多にありませんが、歌手はそれが仕事ですから、人が毎日仕事に行くように、毎日のように歌います。ヒット曲となれば、求められることも多いので、時には1日に何十回となく歌うでしょう。仮に平日1日に1曲だけ歌うとしても、10年では2500回近く歌うことになります。一生涯に歌う回数は膨大です。
言葉は現実化する
「千回の法則」というものをご存知でしょうか? ある言葉を千回繰り返して唱えた時に、それは現実化するといわれる成功哲学の一種です。
眉唾ものではあります。ただし、真実の一面を突いています。思考は言葉となって外へ影響を与えると同時に、内側の思考にもフィードバックしていくことが、心理学では知られています。思考が発言になると同時に、発言が思考へ影響を与えるのです。
人間の潜在意識には、繰り返し言われた言葉だけではなく、繰り返し言った言葉が影響を与えます。だから、言葉を何度も唱えれば、現実化すると古来から言われてきたのです。
人間の潜在意識には、繰り返し言われた言葉だけではなく、繰り返し言った言葉が影響を与えます。だから、言葉を何度も唱えれば、現実化すると古来から言われてきたのです。
「噂をすれば影」
「嘘から出たまこと」
などということわざを誰でもご存知でしょう。言霊(ことだま)などという言葉もありました。昔から魔術と呼ばれる分野では、同じ言葉を飽きることなく繰り返せば、現実化すると信じられてきました。いわゆる"呪文"ですね。
「嘘から出たまこと」
などということわざを誰でもご存知でしょう。言霊(ことだま)などという言葉もありました。昔から魔術と呼ばれる分野では、同じ言葉を飽きることなく繰り返せば、現実化すると信じられてきました。いわゆる"呪文"ですね。
実際の所、繰り返して話すことで言った本人の意識が変わるから、今でも日本中の企業で、会社の方針を社員全員で唱和する習慣が続けられているのです。言葉が物理法則にすら影響を与えるというのは魔術師と呼ばれていた人々の誇張でしょうが、少なくとも聞くだけではなく話すことで、人間の思考が言葉の影響を受けるのは間違いありません。
さて、この法則が正しいとすると、恐ろしい現実が見えてきます。歌手は、歌を呪文のように毎日のように唱えます。歌手が歌詞の影響を受けないはずがありません。
支配と非支配
華原朋美の初期の持ち歌が、音楽プロデューサーである小室哲哉との間の極めてプライベートな感情を描いていることを、ご存じの方も多いでしょう。
華原朋美はシンガーソングライターではなく、シンガーであり、彼女の黄金期の楽曲はすべて小室から提供されています。そして、小室と華原はかつて恋愛関係にありました。
ずっと前から あなたをきっと見ていた
という「I BELIEVE」の歌詞だとか、
いつからか自分を誇れるようになってきたのは きっとあなたに会えた夜から
という「I'm proud」の歌詞は、華原の気持ちでありながら華原から生まれたものではありません。小室が華原の気持ちを想像しながら、華原に与えたものでした。
それはどういうことか。「華原にはこう考えて欲しい」と願う、小室自身の気持ちではあっても、華原の心の底から生まれたものではないということです。
それでも、華原が選びとったものならば華原のものとなったでしょう。しかし、シンデレラ・ガールは、魔法が解ければただの下女です。再びつまらない下女になるのを恐れた華原にとって、小室にすがる他ありません。恐怖を感じながら必死で掴んだロープに対して、華原がどれほどの愛情を注げたでしょうか。
それはどういうことか。「華原にはこう考えて欲しい」と願う、小室自身の気持ちではあっても、華原の心の底から生まれたものではないということです。
それでも、華原が選びとったものならば華原のものとなったでしょう。しかし、シンデレラ・ガールは、魔法が解ければただの下女です。再びつまらない下女になるのを恐れた華原にとって、小室にすがる他ありません。恐怖を感じながら必死で掴んだロープに対して、華原がどれほどの愛情を注げたでしょうか。
何から何まであなたがすべて 私をどうにか輝かせるため 苦しんだり悩んだりしてがんばってる
「Hate tell a lie」は、浮気をしていた華原を、とがめるために小室が作って歌わせたものだといわれています。浮気をしたばかりの女性に自分を称賛する歌を歌わせるという拷問に近い処遇にも、華原は耐えねばなりませんでした。
自分を褒め称える歌を歌わせるというのは、独裁者のよく取る方法ですが、小室も同じことを恋人に強いたわけです。
そこに見え隠れするのは、支配と非支配の関係。先述のように、言葉には人の潜在意識に影響を与える力があります。その力で持って、小室は華原の恋愛感情を支配したのです。
操つられた精神は、自分のものではなくなります。傷つきやすくなり、もろくなり、そして壊れやすくなります。華原は小室から、精神を緩慢に壊され続けたともいえます。
操つられた精神は、自分のものではなくなります。傷つきやすくなり、もろくなり、そして壊れやすくなります。華原は小室から、精神を緩慢に壊され続けたともいえます。
無限回廊
華原と小室の恋愛末期には、さまざまな問題が発生しました。華原側の一方的に突っかかるケンカが多かったといいます。それは、小室の精神の支配を打ち破ろうという彼女なりの努力だったのかもしれません。華原の奇行も報道されました。
結局、小室と華原とは別れ、小室はその後、globeのボーカルKEIKO(山田佳子)と結婚し、永遠に華原の元から去ってしまいました。
華原は、それでも歌手を続けていかねばなりません。そして、ファンが望む限り、彼女の黄金時代を飾った小室提供の彼女の持ち歌を歌わねばなりません。歌う中で思い出されるのは、小室との甘い思い出であり、そして、理想化された小室の姿です。
彼女も元彼の精神的影響下から逃れたかったに違いありません。でも、元々他人に影響されやすい女性です。歌手には「自力型」と「憑依型」に分けるとするならば、華原は圧倒的に後者。普段は天然系の穏やかなお嬢さんが、いったん歌を歌うときはその世界に没頭して、異世界へと人々を誘う、そういったタイプの歌手です。
彼女は、歌を歌うたびに、小室との記憶の世界へ一度戻り、そして現実へと戻った時に、小室がもう戻ってこないことを再認識する、という行為を繰り返すのです。喜びと絶望の間を毎日のように行き来することは、精神に悪影響を及ぼさないわけがありません。
終わりのない無限回廊。歌を歌うことで、常に天国と地獄の間をさまようのです。
終わりのない無限回廊。歌を歌うことで、常に天国と地獄の間をさまようのです。
それは、彼女という歌手に与えられた苦しい宿命です。
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