東京都品川の、青物横丁駅にあるという、婚活居酒屋「四万十」(「婚活居酒屋「四万十」に行ってきた! 中」の続き)
まるで一般住宅のような部屋でまったりと会話を楽しむ……
(この雰囲気、楽しい! 案外はまるかも?!)
という感動を抱きつつ、それでも少し、飽きはじめていた。
というのは、残念なことに、目の前の女性があからさまに我々を無視して、同僚同士の話で盛り上がり始めたからだ。彼女たちにとって、吾々は相手に足らず、といったところか。
そこで、私はトイレに行くふりをして、2階の様子を見に行った。
2階はやや、すいてきていた。時計は22時を回っている。23時には閉店となるためか、そろそろ新しい客足は途絶えようとしているのだろう。それにしても23時閉店とは、飲み屋らしからぬ営業時間ではないか、と思ったが、いや、本来それが普通なのだと思い直す。世の中が深夜営業へとシフトし過ぎてしまっただけで、これくらいで閉店が本来は健康的なのだ。盛り上がった男女はこれからも別の場所で楽しめる。
店員に、声をかけて、2階へ移動できないか尋ねたところ、
「2階客が減りすぎているから、今日は特別に、移動してもいいよ」
と言われたため、移動。年齢層はここも幅広く、20代から50代までいる。
あるテーブルにつき、横の男性と会話を始めた。ふと思ったのだが、ここでは「婚活」と銘打っているから見知らぬ異性に話しかけやすいのは当然として、見知らぬ同性にも話しかけやすいのである。
「この店のことはどうやって知ったのか?」
「目当ての異性はいるのか?」
「占ってもらったことはあるか?」
といった共通の話題である程度盛り上がれるし、それをきっかけにお互いの仕事についての情報交換もできる。
ちなみに、横にいた男性は、誰もが知る外資系の一流IT企業の男性であり、なぜこんな男性がここにいるのだろう、と疑う爽やかガイだった。
「ここに来なくても、出会い、あるでしょ?」
「それが、ないんですよ」
「またまた~」
などといった調子で尋ねると、案外深刻な悩みを抱えていた。
仕事はクライアント周りばかりで、それなりに素敵な異性と出会いがあるのだが、コンプライアンスの問題もあるため、他社社員とプライベートな関係を結ぶことがなかなかできない、というのだ。
「今ではSNSで、噂はあっと言う間に広がりますからね。相手が悪意を持っていて、ふられたことを逆恨みして『あいつは仕事中に私を口説いた』と言い触らされたり、二人のプライベートのメールを公開されたりしたら、アウトですから。仕事上のつきあいのある相手とプライベートな関係を持つのは、リスクが大きすぎます」
と語る彼は、たぶん、真面目な人なのだろうと思った。
パワハラだのセクハラだのコンプライアンスだのとうるさくなった世の中ではあるが、案外みなさん、仕事上の立場を利用してうまくやっている。時に事件になることはあっても、うまくやっているケースはその何千倍とあるだろう。
でも、逆に真面目な若手社員は、会社から通達されるギチギチなルールを守ろうとして、異性とプライベートな関係を持つことを躊躇することが多いのかもしれない。この彼のように。
なんとももったいない話である。
それにしても楽しい。ここがもう少し近ければ、時々通いたいなと思いつつ、カウンターを眺める。そこには長い列が出来ていた。
カウンターには一人の老女が来客一人一人を占っていた。事前に渡された紙に生年月日などのプライベート情報を書いて渡しておき、それを元に占ってもらう。同行の友人に尋ねたところ、
「せっかくだから、並ぼうぜ」
という返事。30分ほど並び、首尾よく占ってもらうことになった。
結果は話すまい。どのようなことを言われたのかを書くと、営業妨害になりそうだから、詳しくはここには書かない。とりあえず、まあ、こんなもんか、という結果。
店を出た。風が暖かい。妙な充実感があった。来てよかったと思う。
「婚活」と聞くと、異性獲得のためにイマイチいけていない男女がうろうろしている、というネガティブなイメージを持っている人もいると思うが、そんなことはない。爽やかなナイスガイ、清楚なお嬢さん、色っぽい女性やラガーマンタイプのいかつい男など、様々な客が、そこにはいた。
その上、会社が近いためか、ごくごく普通のビジネスマンも飲み会の場所として使っていたため、気負うこと入店できるだろう。
とても楽しい時間を過ごすことができた。人恋しい時などに、ふらっと立ち寄ることを、お勧めしたい。素敵な出会いが、そこにはあるはずだ。
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