運送業は、業界自体がブラックなのはよく知られています。あのブラック企業で有名なワタミを作った渡邉美樹は、大昔、体育会系で軍隊的な組織運営で有名だった佐川急便で経営ノウハウを学んだそうです。
さて、おかしな記事とは以下のものです。
★ 残業代未払い求めるドライバー「人間不信に陥る」
運送業がブラックということを知って上記タイトルを読めば、人間不信に陥ったのはドライバー側だろうと思うのですが、そうではなく、経営者側なのです。
今回、当事者となってしまった東京都内の事業者も、「話に聞いていたが、まさか自分がという思いだ」と打ち明ける。よほどおかしなドライバーでも雇ったのだろうと想像しながら読み進めたのですが、
- 「有給を取りたい」と依頼をしたドライバーに有給を与えず有給買取で当座をしのいだところ、ドライバーの態度が悪化した
- 残業代の未払いを請求してきた
- 「払えない」と言ったところ、荷主のところに弁護士を伴って訴えた
- すべての日報をコピーして保管していて、証拠固めされていた
こんなことをするドライバーが、「平気で会社を裏切る」悪いやつだということで、経営者側が人間不信に陥った、という記事でした。……そんな馬鹿な。
労働基準法違反を犯して当然だと思うバカ経営者がいるのは、まだ理解出来ますが、その経営者側に賛意を示すメディアがあるというのはどういうことでしょうか。記事を書いたのは一記者だとしても、編集部のチェックは当然入ったはず。新聞社を名乗る組織が掲載許可を出したことに、呆れます。そんな事実を知る方が、人間不信に陥りそうです。
新聞社を名乗るならば、せめて法令遵守の姿勢くらいは見せて欲しいのですが、業界自体がブラックだと、そういう当然の判断すら、できなくなってしまうのでしょう。
平気で会社を裏切るドライバーや、臭いものにフタをする荷主の姿勢に、人間不信に陥った」。会社を畳むことも考えたが、残ったドライバーのためにも続ける覚悟を決めた。
そうですが、いや、むしろこういう企業は早急に市場から撤退してほしい、と切に願います。
ただ、こういうブラック企業が、他に行き場のない人々の雇用に貢献しているのも確か。昔はそれを担っていたのが、土木業者でした(年末の紅白歌合戦で、美輪明宏が「ヨイトマケの歌」を歌いましたが、「ヨイトマケ」という掛け声をかけながら働く土木労働者が、昔は今よりもたくさん、いました)。
それが、公共事業の縮小と、ネットの興隆などにより、これまでは土木作業に従事していたような層が、運送業へとシフトしているのでしょう。2006年のデータですと、運送業に従事する人々の数は全国で300万人であり、その平均年収は500万円だといいます。たとえ労働時間が長く、休みをとれないとしても、長時間働けば、人並みに稼ぐチャンスがそこにはあります。それは、一服の福音なのかもしれません。
ただ、こういう業界を温存させていることで、結果的に社会全体の質が下がり、人々の暮らしはますますひどくなります。
昨今、アマゾンや楽天などの、通販系の企業が大変業績を伸ばしています。アマゾンなどは、一時期送料無料を掲げていました。たかだか数百円の物を運ぶのすら無料で行なって、利益が出るのだろうかと陰ながら心配していましたが、順調に業績を伸ばしています。
それを支えているものの一つに、上記のような多数のブラックな運送業者の存在があるのでしょう。全部が全部とは言いませんが、労働基準法違反ギリギリで従業員をこき使い、運送料を安く、安く設定することで、異常なまでに安い運送料を実現させているのでしょう。通販業者が隣近所のスーパーや商店街で買うよりも安い値段で商品を提供する陰で、地元自営業者がバタバタと潰れています。
こう考えてみますと、やはり、異常な業界、従業員の最低限度の生活の質を下げて当然だと思う業界へは、怒りの声を上げなければなりません。
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