それを明らかにすることは難しい。その人がどのように生きてきて、どのような人と出会い、どのように認識をしたのか……さまざまなことを知らなければ、その人の思想を垣間見ることは困難だ。
だが、
「友達を見れば、その人の品性が分かる」
などと言われているように、その人の交友関係や嗜好によって、その人の中身をある程度、予測することが出来る。同じように、愛読書に注目することで、その人の思考、哲学を推測できるのではないか、と思うのだ。
先日Yahoo!の新しい新CEOであるマリッサ・メイヤーについて書いたが、そのネタ元となったのは、各界の著名人の愛読書を紹介した記事"Books Extremely Successful People Read"である。同じように、この記事で紹介されている人々の愛読書を紹介がてら、その人となりを時々、推測してみようと思う。
一回目として、まずはオバマ大統領を取り上げたい。
★ Obama's Favorite Books
一回目として、まずはオバマ大統領を取り上げたい。
★ Obama's Favorite Books
『ソロモンの歌』
赤ん坊でなくなっても母の乳を飲んでいた黒人の少年は、ミルクマンと渾名された。鳥のように空を飛ぶことは叶わぬと知っては絶望し、家族とさえ馴染めない内気な少年だった。だが、親友ギターの導きで、叔母で密造酒の売人パイロットの家を訪れたとき、彼は自らの家族をめぐる奇怪な物語を知り、そのルーツに興味を持つようになる―オバマ大統領が人生最高の書に挙げる、ノーベル賞作家の出世作。全米批評家協会賞受賞。(Amazonによる本書紹介)あらすじはAmazonよりも、下記のブログ記事の方がわかりやすかったので引用する。
ある事情でミルクマンというあだ名をつけられた黒人の少年が、成長の過程で自分を取り巻く人々の秘密を知ってゆく。両親の激しい対立。父と叔母の間にある深い確執。祖父の死をめぐる謎。そして気の置けない親友が、実は白人憎悪に凝り固まって無差別殺人に手を染めているという恐ろしい事実。
やがて彼の人生を支配しようとする両親や、彼を憎悪する姉、彼を殺そうと付け狙う恋人など、様々な人間関係が嫌になったミルクマンは、町を出て自分の家系のルーツを探し求める一人旅を始める。だが、そんな彼を裏切り者と見なした親友が、彼を抹殺すべくあとを追ってくることを、ミルクマンは知るよしもなかった・・・。
思わず息をのむような劇的なストーリー展開、暴力的な挿話、迫力ある生々しい描写。それでいて全体を豊かに包みこむ神話的な象徴性。今そこで起きている出来事でさえ昔話のようにあっさりと語っていたこれまでの作品と違って、はるかに直接的でくっきりとした語り口の小説です。
(サイト『ソロモンの歌』(トニ・モリスン) [読書(小説・詩)]より)
『白鯨』
アメリカの著名人の愛読書を調べると、『白鯨』を選ぶ人がやたらと多い。日本でいう『竜馬がゆく』のようなものなのか? 国民的な人気をこの本は誇っているようだ。
私は子供の頃に読んだ。白いマッコウクジラであるモービィ・ディックを追う、片足の船長の狂気が印象的だったが、所詮少年向けの名作劇場シリーズのものであり、たぶん多くが割愛されていたのだろう、誰かの愛読書となるほど、面白いとは思えなかった。
ところが、
「モービィ・ディック」と呼ばれる巨大な白い鯨をめぐって繰り広げられる、メルヴィル(一八一九‐一八九一)の最高傑作。海洋冒険小説の枠組みに納まりきらない法外なスケールと独自のスタイルを誇る、象徴性に満ちた「知的ごった煮」。新訳。という紹介文を読んでみると、興味が改めて湧く。
(Amazonによる本書紹介)
『Parting the Waters: America in the King Years 1954-63』
未翻訳、らしい。『水を分かつ』という名前で紹介されることが多いようだ。
著者はテイラー・ブランチ。内容は、1954年の「人種差別は違憲」というブラウン判決から、1963年のキング牧師のワシントン大行進までの9年間を描いた作品だという。黒人ならば、避けては通れない作品なのだろう。
『Gilead』
これも未翻訳。著者はマリリン・ロビンソンという白人女性。
美しい散文で、死を前にした老牧師の回想と、まだ幼い子供と妻への思いが綴られて行く。神を信じつつも、妻子に殆ど財産らしいものを残さないことへの不安を持ちながら、長い牧師生活を振り返っていく。
しかし多くの日本の読者には、この本を理解することは難しいだろう。キリスト教の家庭に育ち、牧師の生活をある程度分かっている私でも、殆ど筋らしいものがなく、淡々と進む回想を読むのがしんどく思えたことが何度かあった。
稀なほど、美しく繊細な本であるが、日本ではごく小数の人にのみ愛されるのではないだろうか。淡々とした牧師の述懐のようだ。世俗的な欲望を捨て、信仰に生きることを決意することは、資本主義の総本山であるアメリカではしんどいことだろう。その中の不安と、それでも誇りを持って死ぬ充実感を描いた作品のようだ。
(Amazon書評による本書紹介)
『自己信頼』
語りかけてくるようなやさしい文体で、
オバマ大統領の座右の書のエッセンスに触れることができます。
疲れていてもすっと心に入ってくる本でした。
自分の道を見出したいと願う人へオススメです。
エマソンを読んだことのない人への入門書としてもオススメです。
様々な人や自己啓発本からのアドバイスが波となって押し寄せ、
そのうねりが胸元までに迫るが、まだ道は見えず焦りに歯噛みするような時、
この本は自分自身を信じよと言い、
その言葉に気づくところがあります。(Amazon書評による本書紹介)
自己啓発書の一種ではあるけれども、何よりも「自分を信頼すること」に重点を絞った内容のようだ。オバマ大統領が、困難な状況にもかかわらず、決して「ブレない」のは、この本に勇気づけられる事が大きいからかもしれない。
さて。
さて。
彼の愛読書を並べてみると、まず明らかなのは、オバマという人物は、自分が黒人である、という意識を常に持っているということ。
これはまあ、当たり前といえば当たり前。黒人はアメリカの歴史では、差別される側だった。オバマ大統領は、その中から世界最高の地位にまで這い上がった立志伝中の人物だ。常に自分の出自を意識するのは当たり前といえばいえる。
だが、彼が好むのは「差別」という歴史を学び、恨みを新たにすることではない。その体験を自分構築のために役立て、さらにはそこで立ち止まらず、困難にもめげず、この世界を冒険していこう、という姿勢。それが彼の愛読書から見て取れる。
また、少々宗教的な人物なのかもしれない。聖書も彼の愛読者の一つであるし、牧師の生涯をたどる散文詩を、彼は愛している。生きるのが困難な世の中で、それでも人を愛するとは何かを常に意識しているのだろう。
先日、揉めに揉めた連邦議会はようやく協調に転じ、オバマ米大統領は米政府の債務上限を来年2月初旬までの間、引き上げることに成功した。債務不履行の恐れがしばらくの間はなくなり、閉鎖されていた政府機関も再開した。今は盗聴問題やオバマケアシステムの不調で揉めているが、これもうまく収束させるだろう。
幾多の混乱にもかかわらず、ブレない彼の精神は強い。その強い精神を形作る一端を、愛読書がになったのは間違いない。
とりあえず『白鯨』を今度読まなくては。
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