数年前に秘湯にあこがれて、Googleで検索したところひっかかったのが「手白澤温泉」という温泉であった。
「てしろさわおんせん」と読む。
栃木県の奥日光にある温泉で、国立公園内にあるために車で行くことが出来ない。本来ならば温泉業を営むことが出来ないのだが、国立公園選定以前から温泉業を営んでいることから、特別な許可を得てこの地で営業をしているのが手白澤温泉だ。
その時に書いた日記が出てきたので、転載してみることにする。この冬、温泉選びに迷っている人にはお勧めの温泉なので、当時の雰囲気を味わっていただき、「行ってみたい」と思っていただくと嬉しい。
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“秘湯”という言葉に昔から憧れていた。
人里離れた山奥の、老夫婦が営業しているような小さな山小屋と、露天風呂。
裏庭で取れた野菜や岩魚を材料にした田舎料理と、囲炉裏を囲んだ旅人同士の談笑。
……そのような雰囲気を味わいたいと、HPで調べ、この手白澤温泉の評判を知り、年末に予約。 正月料金で一泊2万円と高価だったが、その甲斐はあった。
東京は浅草駅から出発する。東武線にて鬼怒川温泉駅まで、約2時間半。片道¥3,000。
鬼怒川温泉駅から、バスに揺られること2時間(片道¥1,500)で、女夫渕(めおとぶち)温泉に至る。
ところが、それで終りでは無い。
さらに2時間半かけて徒歩で歩く必要がある。そしてようやく手白澤温泉に着くのだ。
予約の際、宿の主人から「もしも5時までに着かなかった場合には、捜索隊を出しますから」と脅されていた。 冗談ではないという。
何しろ、あまりに山奥のため、テレビや携帯の電波も届かない。
道に迷っても、助けを呼べないそうだ。
“正月から新聞に名前が載るのだけは勘弁”と思い、女夫渕温泉から、早足で道を急いだ。
ところが下界と異なり、雪がかなり積もっている(このとき1月。今から考えれば当たり前の話だが、こんな季節に冬に奥日光を旅しようとした私は無茶だったと、今になって思う)。
地図上では遊歩道になっているけれども、とてもじゃないがスニーカーでは進むことが困難であり(私は冬の奥日光にスニーカーでやってきていた)、大人しく車道を進む。
しかし、行けども行けども何も目印になるものがない。
段々と不安が募る。
雪はやんだため遭難する不安はなかったが、周りが真っ白のため、時間や距離の感覚がだんだんと麻痺してきた。
歩き始めて30分ほど経った頃、後ろから小さなトラックがやってきた。地獄に仏とはこのことだった。頼んで乗せてもらう。
車中尋ねたところ、国立公園内の清掃を行うために特別に走ることを許可されたトラックであり、一日に数回しかこの道を走らないのだそうだ。
有難いことに、手白澤温泉の手前まで運んでくれた。
「これから先は、このトラックも進むことが出来ない」
と言われたので、トラックとはそこでお別れして、30分ほど歩き、なんとか5時前に旅館に着いた。
目の前には、秘湯の雰囲気とは程遠い、大きな建物が建っていた。
(明日に続く)
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