2014年6月4日水曜日

ミズ・マーベルはマーベル社のヒロインだが、キャプテン・マーベルはDC社のヒーロー

アメリカのコミックで、昨年イスラム系女子高生が主人公のMs.Marvel(ミズ.マーベル)という作品が現れたそうです。

興味を持ち調べ始めると、マーベルと名付けられたヒロイン(ヒーロー)がそれ以前に複数いて混乱しました。

日本では知られていないアメリカのコミック事情も合わせ、読み解いた複数の「マーベル」について、まずは簡単にまとめてみます。

まずアメリカのコミック事情について簡単に説明しましょう。

アメリカの漫画はヒーローが健全に活躍する物ばかり。日本のような性的なもの、残虐なものはほとんどありません。それは1950年代のアメリカで、
「漫画は青少年に悪影響を与える。有害だ!」
という声が高まり、性的表現、残虐シーンがほぼ一掃され、安直なヒーロー物ばかりとなったことが原因です。

アメリカのコミック業界は、マーベルコミック社とDCコミック社の2社がコミックのマーケット全体の売上の64%を占めています。2013年のそれぞれのシェアは、マーベルが33.5%、DCが30.3%とほぼ互角。

アメリカでは著作権は出版社がガッチリと握っているために、ヒーローは著者のものではなく、出版社のもの。そこで、人気の出たヒーローは、スーパーマンもスパイダーマンも、漫画家の代替わりをしながら、何十年も描かれ続けることになります。日本で言えば、『ONE PIECE』を尾田栄一郎がいくら終わらせたくても許さず、代わりの漫画家を立てて描かせるようなものです。

両社のそれぞれのヒーロー(ヒロイン)は次の通り。
マーベル社
スパイダーマン
キャプテン・アメリカ
X-メン
ハルク
ファンタスティック・フォー
アイアンマン
ミズ・マーベル
DC社
スーパーマン
バットマン
キャットウーマン
ワンダーウーマン
キャプテン・マーベル
つまり、マーベルという名前は出版社名でもあるだけではなく、マーベル社、DC社の両社から出ているコミックのヒーロー(ヒロイン)でもあるんですね。ここが複雑。

まずはDC社のキャプテン・マーベル。
そのころ、DC社が生んだ『スーパーマン』が大ヒットしていました。そこで、DC社とは無関係のフォーセット社という出版社が、1940年に作ったキャラクターが『キャプテン・マーベル』でした。数千年生きる魔術師からS.H.A.Z.A.Mという6つの魔力を与えられたスーパーヒーローが、活躍するという話です。

ところが、スーパーマンの人気を段々と脅かすようになり、DC社から「スーパーマンのキャラ設定をパクっている」といちゃもんをつけられて裁判に。

20年の裁判の末、和解。その際、あまりコミックでは儲からなくなったために、フォーセット社は版権をDC社に譲ってしまいまいした。今ではDC社の所有となり、タイトルも『SHAZAM』と改名されてしまいました。

次に、ミズ・マーベル。
こちらは1977年、マーベル社が作り上げたヒロインです。彼女は元々超人的な力を持たない、普通の地球人でした。もっとも、CIAのエージェントという彼女の前職を普通と言えるかどうかは、微妙なところですがね。

しかも彼女の恋人はクリー人という超人的な力を持つ異星人(ますます普通じゃない!)。名前はキャプテン・マーベル。もともとは、彼氏の名前だったのです(前述の元フォーセット社のキャプテン・マーベルとは別人です)。

ところが彼氏のキャプテン・マーベルは、敵との戦いで爆発します。その衝撃で彼の遺伝子が、彼女の体内に飛び込んで融合し、不思議な能力が芽生え、スーパーヒロインとして活躍するようになったのがミズ・マーベルの誕生です。

いまでは「アベンジャーズ」(映画にもなりました。ヒーロー総出演のようなものです)にも加入しており、マーベル社の主要キャラの一人となっています。

ただこの1977年登場の「ミズ・マーベル」よりも先に、1944年にも「ミス・マーベル」という名前のキャラクターがいるそうですが、あまり詳しくありません(「東映スパイダーマン後のマーベル提携作品」という記事による)。

新しく登場した女子高生の『Ms.Marvel』は1977年登場の「ミズ・マーベル」のタイトルだけ借用して、新しいキャラとして作り上げた作品のようです。日本でも最近、『寄生獣』というタイトルなのに、キャラが今風に改変されたアニメが放送されていますが、あれと似たようなものでしょうか……。



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さて、『キャプテン・マーベル』『ミズ・マーベル』いや、そもそも出版社名の「マーベル社」など、「マーベル」という名前がこれほどたくさん出てくるのは、なぜでしょうか? 

マーベル社という会社の存在がまずあって、それに対抗するために(あるいは敬意を表して)、フォーセット社がライバル社の名前を冠した「キャプテン・マーベル」というキャラクターを作ったのでしょうか(日本だと、「少年マガジン」に『名探偵 立花集英』というタイトルのマンガを連載するようなもの)?

それにマーベル社が「元祖は俺達だ」と対抗して、「ミズ・マーベル」という女性キャラクターを思いついた、とか?

調べた結果、これは違いました。

なぜなら、フォーセット社が「キャプテン・マーベル」を作ったころ、マーベル社は「タイムリーパブリケーション」という社名だったからです。

「タイムリーパブリケーション」は1939年創立。その後、1950年にアトラスとなり、1957年になってようやくマーベル社となります。つまりライバル社の名前からキャプテン・マーベルが名付けられたのではないのです。

では、マーベルという名前がコミックのヒーロー(ヒロイン)に次々につけられる理由はなにか? たとえば、アメリカンコミックの創始者に手塚治虫のような天才がいて、彼の名前がマーベルだったとか? だから彼をリスペクトしてマーベルの名前を使いたがるとか? 

……調べてみれば、簡単でした。"marvel"(=マーベル)という単語は人名ではなく、「不思議」「驚異」「おどろくべきこと」という意味の一般普通名詞なんですね。

日本だと、『宇宙戦艦ヤマト』『白い戦士ヤマト』『ヤマトナデシコ七変化』など、ヤマトの名のついた作品が多数あるのと同じようなものでしょうか。

マーベルという名前のヒーローやヒロインが大勢いて、マーベル社という出版社まであるのは、ただの偶然だったようです。

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