キャリアは作るな、巡り合いに賭けよ より |
その理由は、私が好きな「藤田田」(ふじたでん)という一代のカリスマの影響力を、アメリカ本社の指示どおり、徹底的に排除することに成功したことだ。見事な手腕で、優秀なマネージャーであることは確か。でも、あの強烈なキャラクターの延長線上にある日本マクドナルドであって欲しかった、という、こちら側の勝手な期待を裏切ったことで、どうしても好きになれぬ。
例えて言うならば、ジョブズ亡き後に、ジョブズの影響力をアップルから完全排除してアップルを立て直した男を好きになれるかどうか、と問われたアップル信者のようなものだ。
それに、やり方も結構苛烈だ。原田氏は、2004年の就任時から8年連続で増収増益を達成し、マクドナルドの営業利益を10倍の281億円にまで増加させた。だが、その実態は徹底したコスト削減だった。
社会保障の充実した直営店をフランチャイズ店へ変え、社会福祉関係のコストを削減し、直営店の中高年の社員をフランチャイズ店へ出向に追い込んで人件費を抑えている事例などが、下記のサイトにはいくつも紹介されている。
★ 日本マクドナルドユニオン
経営者としては優秀だが、労働者側から見れば批判の的。今の私は労働者よりの人間だから、どうしても彼のような人間に批判的になるのは、仕方のないことだとお許し願いたい。
そんな彼がベネッセ社長に就任した途端に、2070万件の個人情報流出問題が発覚した。
退任間際にはマクドナルドの売上を極度に落とし、ベネッセに就任するや否やこのような大きな問題を引き起こす。今では「運のない男」というレッテルまで貼られる始末。
下記記事では原田氏の対応に痛烈な批判を浴びせている。
★ 影を潜める“原田マジック” ベネッセが迎え入れた救世主が迷走
だが、ちょっと待って欲しい。原田氏が嫌なやつであるのはともかく、今回の記者会見などでらとった彼の手法は間違っていないのではないだろうか。むしろ経営者として正しい手法をとっているのではないか。
以下に、上記記事に対する反論を、述べてみたい。
今必要なのは社内の人心掌握
原田氏は、(中略)流出情報を利用した他の通信教育会社の倫理を問う発言を繰り返した。もしも原田氏が、ベネッセに就任して数年経った頃にこの事件が発覚してこの対応を取ったとしたら、この発言は責められてしかるべきだ。
謝罪会見の場で他を非難する-。企業広報に詳しい関係者によると、こうした行為は責任転嫁と受け取られやすく、やってはならないことのひとつとされる。
だが、今回の事件は彼がベネッセ社長に就任して、一ヶ月も経たないうちに起きたもの。まだ、彼が社内の社員の心をつかむ前に起きたことだ。
まだ彼は、社外からベネッセの人間として叱責を受ける立場ではないから、批判も免れうる。逆に、社内からは同志とみなされていない。
こういう時期に自社を批判することは、自殺行為。社員からは裏切り者とみなされてしまう。逆に、世間から批判を受ける中で社員を守る発言を行えば、社員の気持ちをつかむことができる。
原田氏にとって、問題を解決するためにも、まずは社員の気持ちを掴む必要があったはずだ。だから彼は敢えて、他社を社会的批判を覚悟で、批判してみせた。
就任して一ヶ月しか経たない原田氏に、今回の事件の責任がないことは世間もよく理解している。だから、多少、他人ごとのように他社を批判しても、そこまでヒステリックな批判は受けないだろう、という冷静な判断もあっただろう。
カネには出すタイミングがある
ただ、もちろん社会の目は甘くはない。だから、ベネッセ自身の責任を曖昧にする原田氏の対応に大きな批判が起こった。そこで、彼は約一週間後に、総額200億円もの原資を基にした金銭補償を行うと表明した。これが場当たり的な対応だと批判を生んでいる。だがそうではない。むしろ緻密な計算の結果ではないか。もともと彼はマクドナルドの社長時代、一万円足らずの消費税二重課税事件を解決するために、数千万円の謝罪広告を出した男だ。最初から、巨額の補償対策費が必要であることも重々承知していたはず。200億円もの金額補償は、むしろ彼の想定内だったのではないだろうか。
役員会などに、事件発生当初から、要求していた可能性もある。
しかし、それだけ巨額のカネを出すことを、ベネッセの他の誰も、おいそれと決意できないだろうし、就任して一ヶ月も経たない男の説得が功を奏することもなかっただろう。
そこで、敢えて悪役となり、世間から批判をさせ、ベネッセ役員全員に危機感を与えたのではないだろうか。大きな逆風を受け、初めて世間の厳しさを知る。よくあることだ。彼は批判をうまく利用したと言える。
矛盾ではない
社内の人心掌握と、個人情報流出事件解決を同時に行わなければならないから、今回の対応はとても難しいものだった。2つの目的を同時に果たそうとするとき、性質の異なる言動が交互に現れるために、首尾一貫せずに迷走しているように見えるが、迷走ではない。2つの計画は時に真逆の行動が同時に必要となるため、矛盾のように思えるが矛盾でもない。
それは、ブレーキとアクセルを交互に踏みながら、目的地に向かうようなもの。直線でアクセルを踏み、カーブでブレーキを踏むことは、迷走ではないだろう。
盾で守りながら矛で攻めることに、なんの矛盾があるだろうか。お互いをぶつけるのではなく、矛も盾も相手へ向けているのだ。
今のところ原田氏は、うまくこの問題に対応していると、私は思うのだ。
今のところ原田氏は、うまくこの問題に対応していると、私は思うのだ。
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