2014年12月6日土曜日

家族を守るために殺人を犯した父の判断は正しかったか?

デジタル版朝日新聞の記事からです。

★ 「妻と娘を守る義務がある」 三男殺害、父への判決
父親「主治医や警察に入院をお願いしたが、最終的には措置入院もできなかった。今の精神医療の社会的仕組みでは、私たち家族は救えないのではないか。そう思いました」
 7日午前3時前。父親は風呂を出ると、2階にあった出刃包丁を持ち出し、三男の部屋に向かった。寝ている三男の横に中腰で座り、左胸を1回、思い切り突き刺した。

この記事を読んで、私は考えました。同じような状況に置かれたとき、自分はどうするか、と。

身内や隣人が反社会的人物となる可能性

似た事件が、長崎県の佐世保市でもありました。少女は、殺人衝動にとらわれた末に、同級生を殺したという、例のあの事件です。少女を野放しにしていた責任を問われた弁護士の父親は、世間から非難を受けた末に、自殺しました。

家族に狂人がいる苦労を想像することは、同じ状況にいない者にとっては難しいでしょう。しかし、たとえば隣人に執拗な嫌がらせを受けることや、ストーカーの被害に遭うことは誰にでも起こりうることです。他人に害を加えようとする狂人に出会う可能性は、どこにでも転がっています。

彼らが社会人ならば、彼らの非道を会社なり得意先なりに訴えて、兵糧攻めをねらうこともできるでしょう。ところが、相手が生活保護を受けていたり、親の財産を相続して働かなくてもよい、そんな相手だった場合は? 彼らには時間が十分にあり、失う社会的地位もないため、執拗な嫌がらせを避けることは困難です。

有り余る時間を使って、バレないように窓に石を投げたり、延々と苦情を述べ続けたりと、あの手この手の嫌がらせをおこなうことも多いのです。中には身の危険を感じることもあるでしょう。たいていバレますが、中には巧妙に証拠を隠すことに長けている者がおり、警察が動きようがないことも珍しくありません。

そんな狂人とつきあう羽目におちいったときに、さて、どうするか? この父親のように、殺すしかないのか? いざその状況に陥った時に、追い詰められた頭ではまとな判断ができません。平時に考えておくことが、大切です。

私の経験

今のところのベストな回答は、
「彼らから危害を受けたら、どんなに恥ずかしくても、怖くても、必ずその都度、警察に訴える」
ということではないかと思います。

冒頭の記事の事件では、母親に暴力を振るっています。長崎の同級生殺害事件も、その前に父親の頭蓋骨を陥没させるという暴力事件を起こしています。その時点で、警察に突き出さなければならなかったのでしょう。そうすれば、後日自分の手で息子を殺すことも、娘が他人を殺すことも、なかったかもしれないからです。

しかし、これは思った以上に、難しい。それは、昔私がとあるブラックな職場に勤めていた頃に、雇い主から木刀でのどを突かれたことを警察に訴えられなかった経験上、よくわかります。

警察に駆け込んでも、彼が逮捕されることはないでしょう。せいぜい厳重注意でしょう。のどの柔らかいところを突かれただけで痣もありませんから証拠もありません。逆に名誉毀損で訴えられるかもしれません。



しかも、彼は、
「もしもお前が逆らえば、懲戒解雇の上、以前の勤め先すべてに電話して、どんな人間か調べつつ、お前がどんなに無能な人間だったかを話してやる」
とうそぶくのです。

彼には実行力と執念深さを備えていました。たとえば、取引先の気に食わない役員に失礼な態度を取られたことがありました。そのとき彼は、その役員によって取引が中止されたあとに、その上司に敢えて大口の顧客を紹介したり、それをきっかけに他の役員と飲み食いを重ねるなどして信頼を勝ち取ったのちに、1年かけて件の役員を退職に追い込んだことがありました。

彼はゲームのように、誰かを嗜虐するのが好きな人間で、雇った人間が不幸になるように裏で画策するのが大好きなのです。だから、私の以前の勤め先に電話をしてあることないことを吹き込むというくらいの嫌がらせは、法に触れない範囲で間違いなくやるでしょう。

私にもプライドがあります。元勤め先を円満退社したものの、そこに嘘ではあっても妙な噂を吹き込まれるのは死ぬほど嫌でした。だから結局彼の暴力を警察に駆け込むことはできませんでした。

彼はこうした脅しで、前に勤めていた人間に暴力をふるい、自殺未遂に追い込んだりもしていました。弱い人間をねらって。世間に公表されることがないだろうと見越して。弱い人間にもプライドがあることを見越して。

プライドを捨てるのは難しい

この手のプライドが邪魔をして、結果大きな災厄に見舞われることは予想以上に多いのです。北九州監禁殺人事件でも、被害者が犯した小さな罪(不倫など)を表沙汰にされることをおそれて、加害者の松永太の言いなりになっていました。彼が犯す犯罪を警察に訴えることができませんでした。

犯罪者を警察に突き出すことに、普通ならば、誰もためらいを覚えないでしょう。ところが、相手が家族であったり、あるいは相手に弱みを握られていたりすると、警察に突き出すのは難しくなります。
 父親「警察に突き出すことは、三男を犯罪者にしてしまうこと。その後の報復を考えると、それは出来ませんでした」
 父親は法廷で、「三男は自分が犯罪者になることを恐れていた。家族がそうさせることはできなかった」とも話した。
と、冒頭記事の事件を犯した父親は証言しています。これもまた、プライドです。記事では「三男を犯罪者にすることはできなかった」と父は述べていますが、それだけでしょうか? 身内に犯罪者を抱えること、それが勤務先にばれることなどが恥ずかしい、という気持ちが、彼ら家族にあったのではないでしょうか?

日本人にはこの「恥ずかしい行動をしたくない」という気持ちが、自分でも思っていない以上に強いのです。それは社会の安定をもたらす反面、狂人や反社会的人物らに、つけこまれる隙をつくります。

江川達也の覚悟

こうした問題解決の参考例として、漫画家の江川達也さんがいます。
『東京大学物語』でおなじみ、ときどきテレビでコメンテーターとして活躍している江川氏は、元研究者である兄との間に、大きな確執を抱えています。

★ 親族に20億円騙し取られた森光子、実兄のせいで数億円失った江川達也…家族とお金の話

「1年研究してだめだったらやめてください」と結論を先送りした江川氏のもとには、さらに兄より執拗な電話がかかってくる。

「『お前が今まで稼いだ金と将来的に稼ぐ金も全部俺のものだ。死ぬまで稼いでも足りないぞ。早く金を返せ』『金を送らないと、お前のかみさんを“念”で殺してしまうぞ。殺したらお前の責任だ』『お前の目が見えなくなるぞ、いいのか』――こういったことを16~17時間にわたってネチネチと繰り返され、『このままでは、死んでしまう』と思いました」

江川氏は宗教に狂った兄から家族を守るために、兄を訴えます。それだけではなく、骨肉の争いを、継続することを決意しています。
「裁判が終われば、必ずまた兄が執拗に金を要求し、『お前の家族を殺してしまう』と言ってくると思うからです。私が死んだら妻や子どもが標的にされるでしょう。『俺の金を返せ。数兆円だ』とどこまでも追ってくるでしょう。兄が死ぬまで私は、生きて、家族を守るつもりです」
身内が狂人となるかどうか、反社会的人物が自分にからんでくるかどうかなど、自分がこうした争いに巻き込まれるか否かは、運次第です。それでも世間の中で、なんとか犯罪者とならずに、あるいは被害者とならずに踏みとどまるためには、現状の司法制度で出来る限りのことを、おこなっていくしかないのでしょう。そして、こうした争いを続けている人々を、応援していきましょう。


上記の本はお勧めです。犯罪者たちがどのように脅してくるのか、その場合にどのように立ち向かえばいいのか、くわしく書かれています。

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